濱口労働安全コンサルタント事務所 濱口 敦さん

濱口 敦

濱口労働安全コンサルタント事務所

住友金属で長年にわたり安全管理・現場監督の実務に従事し、その後、橋梁製造部門である住金ブリッジ、横河住金ブリッジにて経験を積む。定年退職後は独立し、労働安全コンサルタントとして活動を開始。建設業や製造業を中心に、企業の安全体制づくりを支援している。

60歳を過ぎてから大阪大学大学院人間科学研究科に進学し、心理学や行動科学をもとに“ヒューマンエラーの構造”を科学的に探究。Safety-II(成功から学ぶ安全学)やレジリエンスエンジニアリング、心理的安全性の概念を取り入れ、現場レベルでの安全文化の底上げを目指す。

現在は複数企業の顧問を務め、現場パトロール・安全教育・制度整備支援を並行して行っており、資格取得支援や能力向上教育の制度構築にも取り組み、現場と理論をつなぐ実践的なコンサルティングを展開している。


今回は、そんな挑戦し続ける濱口さんの魅力に迫ってまいります!

(聞き手・文:光村紀勝)


「ヒューマンエラーを科学する」
──労働安全の現場から学ぶ、人を守る知と実践


光村:事業内容について教えてください。

私は労働安全コンサルタントとして、建設会社や製造業など複数の企業の安全体制づくりを支援しています。現在は顧問先が9社あり、そのうち4社には月1〜2回、あるいは週1回の頻度で訪問しています。現場の安全パトロールや、安全衛生体制が法律に即して整備されているかの確認、加えて新しい規則や制度への対応支援などを行っています。


光村:事業を通してどのような社会課題・社会貢献に取り組んでいますか?

私自身、「社会貢献をしている」という意識でやっているわけではないのですが、結果として社会課題に関わっていると思います。例えば、建設業界では“ヒューマンエラー”が事故の大きな要因になっています。事故を防ぐには、人間のことを知らないといけない。私は大学院で心理学を学び直し、人の心や行動の構造を理解することで、「なぜミスが起きるのか」「どうすれば防げるのか」を現場教育に反映しています。


光村:その社会課題の実現に対して、社会の現状を教えてください。

建設業には資格制度や教育制度が非常に多くあります。何か作業をするには、それに応じた資格が必要です。ただ、それが本当に現場で活かされているかというと難しい部分が多いんです。法改正があっても、多くの現場では情報が届いていない。法律が変わったことすら知らずに、現場は以前と変わらないやり方で動いているケースが多いです。

また、労働基準監督署が現場に立ち入ることもそれほど頻繁にはありません。つまり、法律があっても、それが現場で“効いていない”というのが現状です。多くの人が「法律が勝手に変わってる」くらいの感覚で、自分から調べにいくことも少ない。情報が届かないまま、放置されているケースがかなり多いと思います。


光村:その現状に対しての最大の障壁は何になりますか?

一番の障壁は「情報の浸透がされていないこと」、そして「制度と現場がかけ離れていること」だと感じます。法制度はどんどん整備されていくけど、それを使う側、つまり現場の職人さんや作業員には届いていない。安全教育のマニュアルはあるけど、それが“理解されているかどうか”は別問題なんです。

本当はその会社の中で、現場レベルで「なぜこういうルールがあるのか」「どうすれば安全を守れるのか」を共有していく必要があるのに、そこが飛んでいる。これが事故やミスを引き起こす大きな要因になっていると思います。


光村:その現状を打破するためにどのような行動をされていますか?

私は現場に足を運んで、実際に見て話して、状況を把握することを第一にしています。安全パトロールでは、「どこが危ないのか」「なぜそれが問題なのか」をその場で説明し、納得してもらうようにしています。

また、私は下請け会社さんが集まる協議会の顧問もしています。そこには50人以下の会社が多いのですが、協議会全体で見ると100人を超える人が関わっています。その中で「この制度が変わりましたよ」「こういう教育を受けておかないといけませんよ」と、情報をわかりやすく届けるようにしています。

資格も今は5年ごとに更新が必要になってきています。「取って終わり」ではなく、「取り続け、学び続ける」ことが当たり前になるように、制度と現場をつなぐ役割を果たしていくつもりです。


光村:誰もが社会貢献を考え、社会をより良くしていくには、どうすれば良いとお考えですか?

特別なことをしようとしなくても、自分の持ち場でできることをやれば、それが社会貢献になると思っています。私は大手企業ではなく、中小の現場を多く回っていますが、そこでも「安全のレベルを上げる」ことで、人の命や健康を守ることができる。これは社会の根っこに関わる大事なことだと思っています。

派手ではないかもしれないけれど、一つひとつ現場の意識を変えていくことで、確実に社会は変わると信じています。


光村:これからの時代をつくる大学生や新社会人に向けて、メッセージをお願いします!

これからはAIやテクノロジーがもっと進んでいく時代です。でも、人間が関わる限り、ヒューマンエラーはなくならない。だからこそ、“人を知る力”が必要になる。私が大学院で心理学を学び直したのもそのためです。

若い皆さんには、「知識を持つこと」に加えて、「自分で考えて、相手のことを理解しようとする力」を持ってほしいと思います。そして、何事も一度や二度の失敗で諦めずに、粘り強く取り組んでほしい。自分の信じる道を進みながら、人との関わりを大切にしていってください。

濱口さん、貴重なお話を聞かせてくださり、ありがとうございました!

(聞き手・文:光村 紀勝)